資料の保存

 本校では、夏季休業中に「盲ろう唖」教育教材資料展を開催し、多くの方々に資料を公開してきています。
 この貴重な資料から当時の実践を学び、特別支援教育の発展に寄与しすること、また、資料を後世に残す使命があると本校では考えています。しかしながら、良好な状態で保存されてきたとはいえ、資料は経年劣化が進んでいるものも多いのが現状です。これからは元資料に直接触れることなく資料を閲覧できるようにデジタル化することが急務です。しかし膨大な資料のため、デジタル化の試みは一部にとどまっています。できるだけ早期にデジタル化を実現させ、特別支援教育に関わる方々や資料に関心を寄せてくださる方々にデジタル化した資料をアーカイブ化して幅広く公開していきたいと考えています。

盲ろう資料のページ

 本校には、昭和25年~46年にわたり、盲ろう児への教育に当たった実践記録があります。これらの実践は、東京大学の梅津教授を初めとした研究者の協力により、質の高い教育実践として本校で行われました。
 この実践は全国でも初めてであり、その記録は計画的に実施された盲ろう教育の実践として我が国唯一の資料です。この教育資料の全てを平成23年に独立行政法人特別支援教育総合研究所上席総括研究員の中澤惠江先生(現横浜訓盲学院長)から本校が受け継ぎました。
紙資料に加え、指導中の映像や、音声・写真が残っているという点で、世界でも類を見ない貴重な資料と言えます。
 本校では、このような教育実践を教育関係者ばかりでなく、広く世間一般の皆様にも知っていただくために夏季に「盲ろう唖」教育教材・資料展を毎年実施しており、今年で10回を数えました。
 このようなかけがえのない資料ですが、経年劣化による資料の損傷が激しいため、現在、保存のためのデジタル化に取り組んでいます。


盲ろう者とは

 社会福祉法人全国盲ろう者協会では、身体障害者手帳に視覚と聴覚の両方の障害が記載されている人としています。目が不自由な上に、耳も不自由な人たちのことを「盲ろう者」と呼んでいます。あの有名なヘレン・ケラーのような人、と言えばお分かりでしょうか。とホームページに書かれています。


山梨県における盲ろう教育
 
 本県における盲ろう教育は、昭和23年当時の本校校長堀江貞尚氏が山梨県下の実態調査を行ったことに始まります。当時、盲学校・ろう学校の義務教育化が実施されましたが、就学状況が把握されておらず、就学率も上がりませんでした。この調査の結果、盲児40人、ろう児190人、盲ろう二重障害児5人を発見しました。4例は重い知的障害と発育不全を併せ有していたため、結果的に教育よる効果が期待できると判断された男児1名に家庭訪問による教育を開始しました。その後、神奈川県から女児1名の女児を迎えました。そして、昭和35年には男児1名への実践も始まりました。指導には、多くに困難があったことが記されています。
 盲ろう児は寄宿舎に入舎し、24時間、専任の寮母によって教室と一体になった指導が行われました。当時を振り返る元担任の文章には「寄宿舎の指導は非常に重要で、むしろ寄宿の指導から子どもの成長発達にともなって、教室の指導が分かれていったのが、初期の実際の道筋でした」とあります。
 この教育は、山梨県教育員会指定の実験学校及び文部省の9次にわたる指定実験学校として本校だけでなく、東京大学 梅津八三教授ら多くの関係者の協力のもと心理学的見地から科学的系統的な指導が行われ、大きな成果を上げた国際的にも大変貴重な実践です。

 本校で行われた「盲ろう教育」実践について、その意義をまとめると次の7つになります。
① 戦後間もない時期に開始されたこと
② 「子どもから学び、子どもに教え、子どもの変化からまた学ぶ」こと
③ ローマ字式指文字を導入したこと
④ 科学的な体系によりコミュニケーション、点字や教科の学習を行ったこと
⑤ 研究者と本校教員及び寮母による共同教育実践であったこと
⑥ 長期的な実践研究であったこと(昭和23年から昭和45年までの20数年)
⑦ 学校と寄宿舎や盲児施設が一体となって指導実践をしたこと

 この実践研究に係る2,250点を超える諸資料が、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の中澤惠江氏(現横浜訓盲学院長)のもとに保管されてきました。平成23年1月、これらの資料を本校が受け継ぐことになりました。現在の特別支援教育の原点とも言える当時の実践研究をひもとき、将来の特別支援教育に活用していくことは、意義深いことであると考えます。


資料の概要紹介

 本校には、冒頭に記述した盲ろう児3名と調査時に発見され間もなく亡くなった男児、及び昭和44年に北海道から入学したH子の指導に関わる教材・資料が残されています。資料の概要は次のとおりです。

① 資料
ア 対象児の使用した点字学習テキスト(点字カード)など
イ 対象児が記した日記や学習プリントや触画など
ウ 対象児の学習の様子を記録した研究者・指導者の記録など
エ 通知表、学級日誌及び寄宿舎日誌など、学校としての記録
オ 対象児と研究者の往復書簡

② 教材
ア 点字を習得する為に使用した概念形成学習に関わる教材(手触り・位置・方向 ・順序・形態などの弁別教材)
イ 数や点字を使った記号操作学習に関わる教材
ウ 教科学習に使った教材(時間・数・点字・盲児用作図用具・理科・数学・触地図など)
エ 発声及び口型に関わる教材

③ その他
ア 当時の指導をまとめた研究報告書など
イ 指導経過をまとめた指導系統図
ウ 記録関係
 ・静止画像:学校生活、日常生活【家庭・寄宿舎・その他】の場面など
 ・映像:指導の経過を記した16㎜フィルムなど
 ・録音:発声の過程を記した音声記録など報告書


資料の読み取り
 
 当時の資料は、60年以上前のものもありますが、梅津番号により整理され、授業のノートや指導者の記録や当時の往復書簡、日誌、日記、写真とそのネガフィルムなどの多くが残されています。これらの資料からは、盲ろう児の教育を系統立てて体系的に捉えていることを感じることができます。現時点では、私たちは全てを明らかにすることはできていませんが、当時の関係者が盲ろう児と寝食を共にし、熱い気持ちでこの教育に関わっていた実践が、現在の特別支援教育の根幹をなしているという確信を持つことができます。昭和59年に文部省が出版した「視覚障害児の発達と学習」のなかで教材が持つ意義が書かれています。今日の特別支援教育においても教材が持つ意義はとても重要です。以下がその引用になります。写真については本校に保存されている物です。
 
 子どもが課題を納得できる手掛かりを十分に準備して、子供が動作を起こす前に、探し、予測し、目的が明確になるように課題の状況を設定する工夫が重要である。この場合、意図的な課題の成立のためには、教材が重要な役割を果たすので、教材を自作することが非常に重要な意味を持っているのである。子供の心の底に芽生えているすばらしい力を見通す教師の目が、その子供に適した新しい教材を作る原動力であり、意欲的な学習の成立のカギである。
 こうした理論を裏付ける事例を次に紹介してみたい。20年ほど前、 我が国で初めて盲聾児の教育が山梨県立盲学校で開始された。当時、この教育の対象児であったS子の学習が進んで、基本的生活習慣がある程度まで確立し、点字の短文による交信が可能になった段階において、発声学習が行われた。ところが、その前段階としての息を出す学習が一向に進展しなかった。 学習の壁にぶつかったのである。人間は生きている限り自然に呼吸をしている。しかし、「イキヲダス」という点字の指示によって、自分で息を「ハアッ」と出すことが、S子にとって、こんなにも困難なことだとは予想されてもいなかった。なんとかして、息を出したことが触覚的に分かりやすくS子に納得させるための工夫はないものかと考えた末、酸素吸入のマスクに、ゴム管を通して小さな亀の子型のビニールの浮き袋をつなぎ、マスクをかけ、息を吐き出すと、浮き袋がフワッと大きくふくらむような教材を自作した。
 S子がマスクをかけ、そのマスクを少し強く押さえたら、のけぞって息を止め、一瞬、こらえきれずに強く息を吐き出したので、浮き袋が大きくふくらんだ。その瞬間、S子は息を出すことがどういうことかを、手に伝わった浮き袋のふくらみによって理解したのである。この日、S子は1日中ニコニコして機嫌がよかったという。以後、マスクからの吹き口をだんだん小さくして、ラッパを吹いたりし、直接、浮き袋をふくらませたりすることができるようになっていった。また、日常生活においても 、それまで、うがいの水を全部飲んでしまっていたが、口に水を含んで吐き出すことができるようになった。
 子供が納得する課題を設定するためには、まず、その子供の外界刺激の受容の状況と運動の起こし方を注意深く観察し、その上で、課題を理解する手掛かりをどう与えるかを工夫することが大切である。この場合、特に、その子供に適した新しい教材を自作することが、意図的学習の成立を促す出発点であると言える。

 残念ながら当時の亀の子型のビニールの浮き袋を見つけることはできませんが、教材の写真やその後の発声の学習の様子は現在も本校に残されています。また、本校には当時の指導記録や日誌が多数残されています。今後、資料の十分な解明が課題になります。

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